天体に関する話/朽木 裕
それを思い出すのは雲を掴むような話であった。
メッセージ性のないクレーム処理を繰り返していると
首が疲れて上を向けなくなっていた。
自分のネクタイの色ばかり見ながら帰路につく。
空では太陽が無心に雲を喰い続けている。
Act:05「火鉢」
「この部屋はやけに寒いな」
窓の外を見遣れば、寒気に刺戟され果てた空は
今にも泣きそうだ。
「だったらお前、太陽をちょっとばかし貰ってこいよ」
火鉢を探すことを探す前からあきらめた男は
尊大に言いつけた。
「ちょっと、ってこぶし大くらいか?」
「そうそう、その位だ」
窓の外を覗くと独り笑いの蝙蝠と目が合う。
窓から手を伸ばすため、踏み台をくれと云ったら
奴は火鉢を出しやがった。
「馬鹿にしてるのか、お前」
「お前を馬鹿にする要素が一体どこにあるんだよ、
太陽を火鉢に放り込めば温いだろうが」
「成程」
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