凶夢/三州生桑
近所の本屋で、新訳の「ロリータ」を探してゐると、以前に好きだった女性を見かけた
彼女の髪の色は、見るたびに薄くなってゆく
今日の髪は、まるで黄ばんだ白髪のやうだった
「ロリータ」を手にしたところで、財布を車に置き忘れてきたことに気付く
本を棚に戻して店の外に出ると、小学三年生ぐらゐの女の子に声をかけられた
「三州先生ですよね?」
かん高く、とげとげしい声
憎悪に満ちた三白眼
何とも醜い女の子だった
「○○君、知ってるでしょ?」
その名前を聞き取れなかった
「・・・いや、知らない」
「ひどい!」
女の子の眼には瞳孔が無かった
私には、小学生の知り合ひなんてゐない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)