小説/河野宏子
 
でも芝生のにおいの
するひとだった。

確かに、あたしのポエジーは連なることができない。
「、」もなく「。」もなく、ごくふつうの暮らしのなかに、
あまりにも垂直に立ちのぼり次の瞬間、まるで恋でもする
みたいに、あるいは狩りでもするみたいに唐突に、突然に
降ってくる。そんなとき、いつでも抜かりなく研がれている
あたしのことばは、あたし自身の胸にも手加減なく降って
くるのだった、ときには物語を残酷に遮って。


そうしてわたしのなかには改行された余白だけがひろがる


あなたが立ち去るときの足音がまだやたらと響く。折れて
しまいそうな細い腰の女の子
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