小説/河野宏子
 
ことばのひとつひとつに立ち止まるあたしは、
昔からあまり小説が読めない。

『物語を読むことは種を蒔くことなんだよ』と、いつだったか
あなたは言った。にくしょくじゅうのキバみたいに研がれた
あたしのポエジーをもしかしたら恐れていたのか、それとも
哀れんでいたのか。答えをすぐにほしがることをたしなめる
みたいに、誰かの胸に垂直に刺さるように仕向けられている
欲望をなだめるみたいに、あたしの髪を撫で、読みかけの
物語について静かに話すひとだった。そして本棚から溢れる
ほどたくさんの物語をあたしに教えてくれたひとだった。
ポエジーの瞬発力で飛びかかると、いつでも
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