さよならの儀式/狩心
 
溢れてくる
この色彩を絶やさない為にも  すぐさま机に戻る

この際  私にとって
手紙の内容などどうでも良い  それよりも
沢山の文字が書かれたその背景に  柔らかい毛が逆立ち
人の手による  均等ではない  まばらな美しい緑色が
自由に広がっているという事  そしてそれを
二つ折りにしてしまい・・・
その折り目にあなたが居たという事  その事実を記録する

貸して
私は妻の手から鉛筆を奪った
芯が折れるほど強く  ひん曲がった棒線を縦一直線に引いた
割れて飛び  零れ落ちた芯の破片を
右手で紙に刷り込んだ  紙が破れるほどに

母への手紙は出来た
妻は目前に
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