真言/山本 聖
 
な叫びは逃げ場を失い膨れ上がった皮の下で腐ってゆくほかないのだ、と医師は反射の激しい磨き上げられた眼鏡の向こうの瞳をぎょろつかせながら言った

わたしは、私は見たところ生まれたてのような子羊の皮を被っておりそれを毎日脱ぐことを忘れていたのですっかり皮下の細胞と癒着してしまい剥がすことが困難な状態になっていたすなわち純然たる皮下組織の閉塞感と血液のアジテーション内面が狼であれ真に何も自分ではできない子羊であれ子羊の皮を被ることと強き狼の皮を被ることとどちらが容易なのであろうか私にとって弱さを露呈することが小さな小さな活動のひとつであったことは否めないけれどその活動そのものが自己にとって安心材料で
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