真言/山本 聖
 
料でありながらも逆に更なる不安を掻き立てる不穏な活動であったことも確かなのだむしろ強がっている方がどれだけ勇気のいることであろうと思うとますます私の心の漣は大きな津波となって皮下に押し寄せてくるのだ

癒着した皮膚は自分自身にしか剥がせぬものなのだそうだそこで私は医師にほんの一滴の涙という至極認知療法的薬物をもらい雷の轟く中ひとり帰途に着いた

帰途、ふと思い出した真言宗の経文を唱えながら一滴の涙を飲み込みにわか雨が去った後の明るい陽光に光る木々のざわめきに自分の皮膚の先端をひっかけては少しずつ皮を剥がしてはまた経文を唱えてみるまかぼだらはんどまじんばらはらばりたやうんおんころころせんだりまとうぎそわか

太陽をちりちり感じる私の皮下組織が露出せんと産声を上げんと私の中身を引っ掻いている

おんぼうぢしったぼだはだやみ

強くある必要などない弱くある必要もない

ただ痛みも心地よさも感じるままに皮を脱ぎ捨て続け自分の中の芯を研磨し続ける自分を保つ力だけは持っていたい

光が強く射すこの道を私は大きな声で真言を唱えながら歩き続ける。
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