狂人はひそかに旅をする /七尾きよし
 
どで撫でることで
言葉でない言葉となって息が流れてく
そんなこんなで
からだから抜け出したぼくのたましいは
空高く舞い上がって
どこへだろうと飛んでゆけるのだ
そういう意味では
いつの間にかぼくはどこでもドアを手に入れたことになる

離人症という病気がある
肌が白くて美しい女性の患者が多いらしい
外の世界が映画のように流れだし
自分だけがいつまでたっても
傍観者で
たった一人の観客スクリーンをながめてる
ぼくはぼくの映画の主人公
登場人物はほかにいたりいなかったりする
旅する主人公はいつも人から人へ
社会から社会へと旅をする
安住の地という言葉は存在しない

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