「モハヤ・・・」/広川 孝治
桜がつぼみをゆるめはじめる
桃色の空気が流れる頃
その知らせは僕一人を
季節に逆行させる
暗黒の風が僕の心に
真冬の冷気を注ぎ込み
霜柱のように
僕を総毛立たせた
彼女は死んだ
異国の地で
彼女が末期の癌に侵され
余命いくばくもないことを知り
ドイツに旅立つことを決めた
そのことを僕が知ったのは
葬儀に参列したときのこと
その夜僕は彼女のために
遅すぎるSerenadeを奏でます
ピアノに向かって延々と
枯れることない透明の
涙が頬を滑り落ち
噛み殺した嗚咽が
メロディーにアクセントを添えている
モハヤ、キクヒトハイナイ
あ
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