地蔵前/みつべえ
ンはすぐには応えず少し間をおいた。慎重に考えてから、きっぱりと言った。
「忘れなよ、あんな男のことなんか」
ユカリは、ふふふっと笑った。
「いつもながら力強いお言葉。おかげで元気がでるわ。ノンのそういうとこ好きよ」
「同性に好きって言われてもなあ」
二人は笑いながら、おもむろに階段を下りた。来た道を戻りながらノンがガイドブックをめくった。
「『地蔵の湯』。ここから徒歩五分だって」
来る途中に見かけた「地蔵の湯」の立て札のところから細道に入って進むと、小さな林に突き当たった。林の中の窪地に湯が涌いていた。周囲の木々が塀の役割を果たして実にお誂え向きの岩風呂だった。けっこう広い。
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