地蔵前/みつべえ
流氷を見にきた客が二人降りた。お揃いの厚手のヤッケに登山帽子。はちきれんばかりに膨れたリュックサック。駅の改札口を抜けるとき背負った荷がじゃまになり、まっすぐにではなく横になって歩くので、カニ族と呼ばれる若い旅行者たちだ。
「見て見て、かわいい!」
「きゃあ、嘘みたい!」
二人は地蔵の襟巻きに気がついてはしゃぎだした。かわりばんこに地蔵の隣りに立って何度も写真を撮った。そして、きゃいきゃい喋りながら、さっきトモコが来た道を森の向こうへまわり込むようにして歩き去った。地蔵の位置からは見えないがすぐ近くに海の方へ出る脇道がついているのだった。
この時季に流氷を見に来るなんて物好きなこった。
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