地蔵前/みつべえ
コを降ろした。カバンに付けた鈴が可憐に鳴った。地蔵は胸を撫ぜおろした。
トモコはバスに小さく手を振ってから地蔵の方を向いた。元気がない。いつもならいきなり地蔵の頭をぴしゃりとやって「ただいま」と叫ぶところだ。忘れていった襟巻きを見ても何も言わない。無言で地蔵の首からはずした。
そのかわりに今朝見たリボン付きの包みを地蔵の頭に叩きつけるように置いた。グシャ、という感じでなかのチョコレートが砕けた。
「あげるわ」
それだけ言うと、トモコは背を向けてとぼとぼ歩きだした。その背を夕日が赤く染める。辺り一面赤い光のなかに沈んでいく。
プレゼントを渡せなかった。つまり告白できなかったのだな、
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