地蔵前/みつべえ
 
り場でもない地点で急停車して扉をあけた。運転士が指で乗るように合図している。二人が乗り込むとバスは何度もエンジンをふかしながら発進した。他に乗客はいないのだった。
 二人は座席に倒れ込んでほっと一息ついた。
 車窓から前方にバス停「地蔵前」がどんどん近づいて来るのが見えたが、バスはスピードを緩めようとしない。バス待ちの人影がないのでパスするつもりらしい。ふと路傍に立っている石像の姿が見えた。襟巻きをした愛嬌のある地蔵菩薩像。頭部にも何か白っぽいものをかぶっている。
「あっ!」二人は同時に叫んだ。
「停めて〜っ!」ユカリが金切り声を上げた。
 バスが急ブレーキをかけた。固い雪道にスリップし
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