地蔵前/みつべえ
リはケチをつけられた気分だった。せっかく元気にしてくれたのに、こんなことでこの町を嫌いになりたくないと思った。きっと、ちょっと好色なカラスのイタズラなんだわ、とありそうもないことで自分を納得させようとしていた。ところが現実は、それ以上にありそうもないことが起こっていたのだった。
ノンはユカリの下着だけ盗まれたことに気を悪くしている自分に腹を立てていた。よくそういう話を聞いてまさかと笑っていた通俗的な感情が自分にもあったなんて。
しかし実際は、どんな人間も自分が思っている以上に通俗的なものである。
二人は息を切らして大きな曲がり角をまわった。ちょうどやって来た「年代物のバス」が乗り場
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