地蔵前/みつべえ
 
の?」
「何かいるわ。木の陰に」
「えっ!」
 二人はわれしらずタオルで胸を隠しながら岩風呂の奥の方に後退した。
「誰かいるの!」ノンが大声を上げた。
 それに応えるかのようにバサバサッと木立の向こうで音がした。二人は恐怖でひしと身を寄せ合った。暴漢か。いや熊かも知れない。冬眠しそこなった人食い熊か! そういえばこの辺からS国立公園にかけては、世界でも有数のヒグマの生息地。さっきまでの幸福感がいっぺんに吹き飛んだ。一寸先は闇ってホントだな。人生ってこんなふうに、ふいに終わるものなんだなあ。ユカリは震えながら考えた。ノンを巻き添えにして悪かったなあ。そうだ、あたしが食べられている間にノンに
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