地蔵前/みつべえ
 
種をした。
「ボンネット型バスよ。エンジンが前にあるからあんな形をしているの」
 ノンはユカリの生気をすっかり取り戻した顔を見て安心した。もう大丈夫だ。東京に帰れば嫌でもまたあの男と会うことになるだろうが、なんとかやっていけるだろう。岩に背をあずけるとノンは両足を思いきり伸ばした。
「いい気持ち。ずっとここにいたいわね」
「でも次のバスに乗るんだったら、そろそろ出ないと」
 ユカリが岩の上のノンの腕時計を見ながら言った。
「どうしようか?」
 二人はまた目を合わせた。
「次の次のにしようよ。急ぐ旅でもないし」
「賛成・・・」と言いかけて、ユカリは突然押し黙った。
「どうしたの?
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