観察者(1)/篠有里
 
れを見た。やっぱり奴はいる。見ないふりをすると、幾分悲しげに俯いてそれでもやはり視界の隅から消えない。蛍光灯が瞬いて、今にも全部が終わってしまいそうだ。ちかちかする灯りの下では絵を描く事はできない。観察者の、背中。後ろで組まれた手。

指紋の付いたガラスの扉を蹴破って外に出よう。逃げよう。ねえ、街路樹は芯を切り落とされてもう上に伸びる事はできない。途中から伸びてきた細い枝には、びっしりと、棘が生えている。あの樹、なんだったのか。

春になると窓から見える白い花。そこで私が唯一覚えている感覚、匂い。暑くもなく寒くもなく、何でいつまでもここにいなくちゃいけないのかよくわからない。更に歩を進める
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