観察者(1)/篠有里
 
めるが、足元からの感触が伝わって来ない。でも、私は裸足のはず。仕方なく鉛筆を走らせる。

流れる事のない茶色い川を泳ぎ切っていくコートの男。向こう側には緑のパイプフェンスが、破れたあの建物の中に行きたい、やっぱり行きたくない。片翼が折れているカラスが友達と会話している。電信柱の下を通ってつるりと二枚目の紙をめくる。

続き。小指の横に、かすれた鉛筆の黒い跡、絨毯の敷かれた廊下は向こうが行き止まりになっていて、そこには両開きの扉がある。内側から扉を叩く音と音と音が、今だけ歌声に負けている。出して。テーブル、柔らかい食べ物、人いきれ。手を使わずに食べてみろと言われたのでそうしてみる。直に口を付
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