やまびとの散文詩(三)/前田ふむふむ
やまびとの散文詩―断片9
青白い炎でゆらぐ教会のなかで、わたしたちは、
旅をする黒だけの簡素な衣装を羽織った
右眼が見えず、右手が無い一行が、一心に祈りを捧げながら、
すすり泣いているのを見ている。
一行は、砂漠のようなまなざしを、朽ちかけた朱塗りの木像に
そそぎ、口を激しく動かして、何かを言っているが
不思議とそこから、謎めいた音階の古めかしい音楽が流れてくる。
そして、絶望を貪り、うつむく一行の剥き出した爛れた肌から
仄かな体臭が漂い、それは、わたしたちの夢のなかで見た、
美しい山々に棲む牝山羊の乳房のあまい匂いを
呼び覚まして、言い知れぬ悲しみが、血しぶきのように
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