壁  デッサン/前田ふむふむ
 
ない。どこにいるのだろう。
親族の席には見慣れた人たちが座っていた。
よく見ると、みんなすでに死んだ人達だ。
暗い表情のなかに悲しみを浮かべて皆泣いている。
恐る恐る、祭壇の遺影をみると、
僕と母さんと妹たちの写真だった。
これはどういうことなの。何のまねなの。
いったい、ここはどこなの。
耳を劈くような読経が始まり、
にわかに極彩色の近代の日本画は、涙で黒く変色して、一瞬にして灰燼になった。
  *****
僕の立っている壁は徐々に内部から、
激しく動揺して崩れて無くなり、
新たに二重の空虚な厚い空気の壁が
出来上がった。

朦朧とした乾いたひかりの中で、気が付い
[次のページ]
戻る   Point(6)