胃袋/鈴木(suzuki)
になっても男はまだ起きてこない。既に艶やかな桃色は姿を消して、袋は薄黒い茶色に変色していた。そんなとき、ふと観客の一人がつぶやいたl胃袋なのだから、胃酸のひとつぐらいあってもいいものなのになあ。嗚呼、なんたる失態。よくよく考えれば間違えるはずもないのだが、なにしろ男は胃袋で寝るのは昨日が初めてで、ついうとうとと暖かくぬめった粘膜を内にして寝てしまったらしかった。そうと分かると観客達は、詩人をうたわせようとやっきに、外から呼んだり叩いたり揺らしたり大凡考えつくことをやってみた。既に袋は酸化して堅く堅くなっているようだった。胃袋は特に叩かれることを苦にするでもなく、うんともすんとも答えない。仕方がない
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