胃袋/鈴木(suzuki)
ないので、どっかの一人が斧を一振り持ってきて袋を破ってしまおうとした。周りの観客達は詩人の身を案じてとどめる声が無い訳でもなかったが、既にただの固まりと化したような袋にそれほどの執着がある訳でもなく、しばらくすると声も消えた。そうして、斧を持った男は勢いよく振りかぶると、斧を胃袋のど真ん中にぶち込んだ。ギャッ、と声が聞こえそうな気がした。その悲鳴とも欠伸ともつかぬような声は空耳に響いて、弾力を失った袋は静かに佇んでいた。そんなこんなでどうにもならず、観客達は以前聞いた詩人のうたを肴に酒を飲んで帰っていった。
その夜、袋はひょっこりと足をはやして立ち上がると、何処か何処かへ歩いて消えた。
戻る 編 削 Point(0)