胃袋/鈴木(suzuki)
 
て内側は見せず、ただすやすやと揺れるだけ。しばらくの間、誘ってやまぬ甘美な香りに惑わされ、観客達は袋を間近によって触ってみたり、遠くからしげしげと眺めたりしていた。しかし次第に、いずれの距離でもおよそ何の変容も見せぬ香りにlいや、むしろそれは近づくほどに薄れていくようにすら思えたのだがl妙な違和感を感じ、終いにはその分からなさに愛想を尽かしていった。そうして結局の所奇異のほかに特に面白いでもなくなってしまった袋は、時折気まぐれに投げかけられる視線の他承けるものもなく、夜が更けるにつれ観客達は一人一人と帰っていった。

 翌日の昼、詩人はよほど寝たりないのか、まだ胃袋は右へ左へ揺れている。夜にな
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