死神と私 −蛍の光−/蒸発王
奮していたのかもしれません
ドアの前まで来ると待ちに待った表情で死神がドアを開けました
奥の和室で息子が泣きはらした目をして虫かごを覗いています
虫かごの中ではあの黒アゲハが横たわっていました
黒アゲハの身体は記憶よりもずっと小さくなって
虹色の光沢は見る影もありません
つぶらな二つの複眼と触覚が凍りついた様に静かで
息子のすすり泣きも静寂に溶けるようでした
急に手の中が熱くなって両手の包みを解くと
先刻捕まえた蛍が飛び出しました
死神は蛍に向かって礼儀正しくお辞儀とすると
蛍も会釈をかえすように上下に飛びました
かごの目を通って蛍がアゲハの遺体に止
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