温泉にて、お月見/広川 孝治
先日、温泉に行った。そこには、露天風呂があった。
放射冷却でカーンと冷え切った外気は、火照る体から湯気の形で熱を奪ってゆく。
奪われるに身を任せながら、岩で形造られた湯船を眺める。
満月の明かりに照らされた岩肌は、湯をまとい滑らかに光を反射している。
足からゆっくりと、湯に潜り込む。冷えた肌がたちまち湯になじむのを感じる。
見上げると葉のない寒々とした木の枝の間に、さながら白い果実のように月が丸い顔をのぞかせていた。
月の白い光がつややかに光っている。
太陽の健康的な輝きに対して、月の光にはどうしても、なまめかしさと言うか妖しさというか、何かもやもやとした
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