ユニコーン/光冨郁也
るように部屋に戻り、あるもので朝食を済ませる。薄いカップに紅茶を入れる。湯気は見えない。母は田舎に帰っていることを思い出す。リモコンでテレビをつけるが、ミュートにして音は出さない。低い音が蛍光灯から聞こえる。窓ガラスのそばにある水槽で熱帯魚が一匹、水草を背景に泳いでいる。テレビには森が映されている。一人の女が歩いている。女は、森の開けたところに立ち、こちらを振り返る。女は無言のまま、その目が痛い。
カップをそのままにし、わたしは洗面所に行く。指を鼻の上にすべらせる。歯を磨き、それからテレビを消し、わたしはアルバイトに出かける。雪の残る道を、自転車を走らせる。風が吹く中、空は電線で区切られている
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