カステラ/松本 涼
 
何故か僕はもうすっかりその歌が
欲しくてたまらなくなってしまっていた

一度家に帰って
台になるようなものを
持って来ようかとも考えたが

その間に僕より
背の高い人が通りかかって

君の歌を持って帰ってしまうかもしれない
と思い直した

だからと言って
僕の背が急激に伸びる予定も無く
僕はただ途方に暮れていた


「強い風が吹けばいいのに」

呟く僕の真上で君は歌い続けていた


君の歌はまるで
カステラのような味のする歌だった

僕はうっとりとその歌を見上げ
どうしてもその場から
動けなくなっていた
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