カステラ/松本 涼
何故か僕はもうすっかりその歌が
欲しくてたまらなくなってしまっていた
一度家に帰って
台になるようなものを
持って来ようかとも考えたが
その間に僕より
背の高い人が通りかかって
君の歌を持って帰ってしまうかもしれない
と思い直した
だからと言って
僕の背が急激に伸びる予定も無く
僕はただ途方に暮れていた
「強い風が吹けばいいのに」
呟く僕の真上で君は歌い続けていた
君の歌はまるで
カステラのような味のする歌だった
僕はうっとりとその歌を見上げ
どうしてもその場から
動けなくなっていた
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)