◎吉増剛造覚書?ハルキ文庫版「吉増剛造詩集」感想 /石川和広
わけて進む一本の櫂にけずり あげて
帰ろうよ
獅子やメダカが生身をよせあってささやきあう
遠い天空へ
帰ろうよ
(「帰ろうよ」全文)
非常にメロウな歌だが、単純な抒情でないことは、「無数の言葉の集積に過ぎない私」という言葉から、わかるだろう。逆に言えば「書かれたもの」の中から、さらに死のほうへ、さらに死んだものは生きているという生々流転の瞬間を捕まえているといえるだろう。
「天空」というのは単なる「空」=無への回帰ではなく、古い中国の「天」を想像させる。
他の詩とリズムが違うのだが、吉増の基層低音である生命が捕ま
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