◎吉増剛造覚書?ハルキ文庫版「吉増剛造詩集」感想 /石川和広
 
見あやまりのかげに咲く花であった
 どす黒くなった畳のうえで
 一個のドンブリの縁をそっとさすりながら
 見も知らぬ神の横顔を予想したりして
 数年が過ぎさり
 無数の言葉の集積に過ぎない私の形影は出来あがったようだ
 人々は野菊のように私を見てくれることはない
 もはや 言葉にたのむのはやめよう
 真に荒野と呼べる単純なひろがりを見わたすことなど出来ようはずも  ない
 人間という文明物に火を貸してくれといっても
 とうてい無駄なことだ
 もしも帰ることが出来るならば
 もうとうにくたびれはてた魂の中から丸太棒をさがしだして
 荒海を横断し 夜空に吊られた星星をかきわけ
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