昔の駄文「詩の人称について」/佐々宝砂
現なのだと言う。しかし、それはあくまで日本語らしさという観点から見た場合のことであって、日本語で「彼は悲しい」式の表現が全く許されないということではない。小説では許される表現だと思うし、実際、翻訳調の小説の中ではよく見られる。
しかし、一人称小説の中で「彼は悲しい」を使うことはできない。一人称小説の場合、視点は必ず「私」にあるからだ。「彼」の内面を知り得ない「私」は、「彼は悲しい」と断言できないのである。また、三人称の小説であっても、視点がある一人の登場人物に固定されている場合、その登場人物以外には「彼は悲しい」が使えない。それではいったいどのような場合に「彼は悲しい」が許されるのだろうか
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