昔の駄文「詩の人称について」/佐々宝砂
 
書けるはずがなかった。なぜうまく書けなかったか? それは、二人称で書かれた文章の視点がいったいどこにあるのか、当時の私がまるで理解していなかったからである(今だってそんなに深く理解してるわけじゃないけどよ)。

 ちょっと考えてほしいのだけれども、日本語で「あなたは悲しい」という文章は成立するだろうか? 少なくとも「彼は悲しい」という言い方は成立しない、あるいは日本語らしくない、と金田一春彦は述べている(『日本語』下巻、岩波新書)。語り手である「私」は「彼」の内面を本当に理解することはできないから、こういう場合には「彼は悲しそうだ」とか「彼は悲しいらしい」とか言っておいた方が日本語らしい表現な
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