鳳仙花/蒸発王
左目の古傷を開かれた
ぷつぷつ
と
肉の裂ける
鈍い音が
鳳仙花の匂いが
絡み付く記憶をえぐり返す
カサブタを剥がされて
マブタ肉の隙間に
奴の遺した眼球が
すべり込んだ
奴をかばって
傘の切っ先が左目を貫いたのは
10の年だった
奴は泣きじゃくり
ノドが枯れるまで謝り
自分の左目も同じようにしようとしたから
必死で止めた
私の左目は光りを失い
それでも
子供心に後悔は無かった
数年後
奴は
故郷を裏切り
国を騙し
友を殺して
逃げた
追っ手は
私
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