鳳仙花/蒸発王
 

涙を流して
頼み込み


むせ返る
鳳仙花の匂いの中


奴の瞳に映る
歪んだ私を見ながら





殺した





その後
奴の
机の中から
私に左目を譲る
という
書簡が見つかり



形見のつもりで


奴の一部を身に宿した





其の
左目の記憶が


私を蝕む




奴の水晶体が
映す
最期の記憶

歪んだ私と

鳳仙花


毎晩
毎晩
奴の記憶に
侵食され
犯され
食らわれた
私は



もはや


自分の名すら
塗りつぶされた
私は

記憶を
食い尽くされた


私は




今夜も
奴の
墓標に立つ




片手に
献花



左目に映る


歪んだ私と

鳳仙花




ああ


少し

幸せ







揺れる鳳仙花






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