服と裸/山内緋呂子
おばあさんだ
青年らしさはすっかり抜け
女性として 年をとっていったのだね
君は 女になりたかったのか いや女だったのか
僕は 軍人になりたかったのか いや軍人なのか
君は今 生きていて 僕は死んでいるけど
君も 僕と同じではないのか
花道を通るとき
昔と同じ香水が香った
君には会わないほうがいい
舞台上でプライベートと同じ香水をつけるのはやめたまえ
いくら役のイメージに合っていても
似た香りを探したまえ
その香水は そろそろ生産中止だろう
家に着き
私は 三島由紀夫の、肉体美を見ることが
一番の供養と思い
鏡の前で 服を脱ぐ
5分程見た
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