服と裸/山内緋呂子
昔
「永すぎた春」に出てきた
「服を着ていても 裸でいるような女」
になりたい と 当時の恋人に言った
「あなたはもうそうなってますよ」
と 言われ
私はずっと そうでありたいと思っていました
由紀夫さん
ヒトは変わります
今の私は
あなたのおっしゃっていた
「着飾ることは デリカシーだ」
という コトバを念頭におき
好きな洋服を買います
デリカシーは身につけましたが
年をとり
いろんなことを知り
誰の前でも裸にはなっていないかもしれません
由紀夫さん
あなたの裸は
実によく 軍服が似合います
あなたは何になりたかったのか なれなかったのか
私にはもう わかりませんけど
似合う軍服を着たまま
死ねたこと
よかったじゃありませんか
今日は 裸のまま寝ましょう
私と
戻る 編 削 Point(36)