不確かな存在3(風が起きるまで)/チャオ
 
財布から五円玉を抜き取る。放り投げる。鈴を鳴らす。

改札の掲示板が記す電車へ駆け込む。忘れてはいけないことを呟く。大きな雲が窓から見える。二人組みの女性が、子連れの女性へ席を譲った。譲られた女性は譲った女性に深々とお辞儀して笑顔でお礼を言った。
その後、その子連れの女性は二人組みの女性よりも早く、電車から降りた。その空いた席。いつの間にか、誰かが座っていた。さっきの二人組みではなった。
新書サイズのビジネス書では、椅子の座り方など書いてはいない。つり革につかまり、電車が左右に揺れるのを我慢し、窓へ目をやった。足の裏がまだ痛み出した。

音がしなくとも、音がするときがある。幻聴とは言わ
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