ニンゲン失格/大覚アキラ
午後の生ぬるい図書館で 退屈と眠気のあいだを 振り子のように行き来しながら
頭の中では 隣に座った 白いブラウスの女のことを考えている
読んでいるわけでもない太宰治のページの端を 人差し指と親指で弄りながら
隣の女の 白いブラウスから透ける 黒い下着を感じ取っている
おれの目と太宰治の間に浮かんでいる 空気の層にピントを合わせながら
隣の女の 黒い下着に包まれた なめらかな身体の曲線を想像している
思いっきり大きなアクビをしたら たくさんの涙が溢れてきて
こぼれかけた涙を手の甲で拭っているところを 目敏く見つけた隣の女が
「どうかなさいましたか」と
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