一目惚れ。/大覚アキラ
 
母親と息子と大きな白い犬がたたずんでいる絵。画面に描かれているのはそれだけだ。夕暮れのオレンジ色の光と、海の紫がかった青が溶けあった、ノスタルジックな色合い。母親と子供は白っぽい服を着ていて、その服にも夕日のオレンジがにじんでいる。
 精密に描かれているというよりは、ちょっとピントの甘い、素人の撮ったスナップ写真のような質感。それが全体になんとも言えない甘く切ない印象を醸しだしている。
 一目で虜になったのだが、たまたま急いでいたので作者の名前さえ確かめずに通り過ぎてしまった。結局、その絵のことはしばらく記憶から消えていて、思い出したときにはその画廊の場所さえ定かではなくなっていた。

 
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