俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
る風潮である。
電化製品の一般家庭への急速な普及が、女性たちを家事奴隷から解放しつつあった。電話やテレビの所有率も近年目覚ましい伸びをみせた。隣国の動乱がニッポンに齎した軍需景気と相俟って、科学文明の日常化の波が世界大戦の傷口を覆うかのように地方にまで押し寄せていた。
繁華街にある森川薬局などは、いち早く自動ドアを導入した。物珍しさに客が殺到した、と新聞に出ていたのを見て笑ったものだ。ドアを開け閉めする手間を省いたところで一体何だというのだ。
とはいうものの、わが俵松酒店にも文明の利器は設置されていた。
缶入り飲料の自動販売機である。
新聞をたたみ「よっこらしょ」とベンチから立
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)