俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
くらいがちょうど良いのだ。そうとも、退屈なのは自分が人生の成功者だからこそだ。
そう思うとシゲジロウは少しだけ気が晴れた。
前の道を乗用車が一台通った。ハンドルを握っている若い女性がシゲジロウの方へ軽く会釈した。通過してしまってから、その女性の顔に思い当たった。坂本医院の次女でアヤコという名の娘だ。いつの間に社会人になったのやら。お下げ髪でセーラー服姿の彼女しか記憶になかった。
それよりも驚いたのは、アヤコが自動車をさっそうと運転して行ったことだった。
女性ドライバーは珍しいが、最近徐々に増えているらしい。クルマの運転は男の仕事だと思っているシゲジロウには、何となく癪にさわる風
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