俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
い。そういえば心の底から怒ったり悲しんだりすることがなくなった。慌てたり、狼狽することもない。いつでも平常心を保っている。
そんなふうに感情が表に出なくなったのはダイスケの言う通り老齢のせいかも知れない、と彼は思っていた。
「隠居爺さんか・・・、嫌な言葉だ」
実際のところ店の経営は息子夫婦に委せてあるので、彼も隠居の身同然なのだ。それでも相変わらず店頭に立つのは他にすることがないからだった。
また溜息が出た。
如何なるときも心を平らかに保てるのが成熟した人間の証だとしたら、自分は順調に年を重ねてきたということになる。この安らかな境地に何の不満があろうか。幸福というものは退屈なくら
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