俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
 
「おはよー」とぶっきらぼうに挨拶を返す。植山理髪店のご隠居は彼と同世代である。そのせいか昔から互いに遠慮がない。
「酒屋がこんな時間から店開けても客来んだろう。あんまり張り切ると若い者に疎まれると違うんか?」
 植山老が皮肉っぽく言った。が、目は笑っている。
「なあに言ってるんだ。この店は俺と一心同体、俺が起きているときは店も開いているのは当たり前じゃ」
「はっはっは。でも、いいかげんに隠居しろよ。ダイスケ君が迷惑がっているぞ」
 それを聞いていた当の本人がまた顔を出す。
「そうだ、そうだ。もっと言ってやってよ、ウチの頑固オヤジにさ。どうせ役に立ってないんだから、余生を楽しめって」

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