俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
 
 長い冬が終わった。人々は落ち着きをなくし新たな計画のために奔走する。つまり大部分の人間は希望にみちた旅の支度をする。なぜなら爆発的にはじまって、すぐ終わる短い春こそ北国の力の源泉だから、うらぶれた心に、憂欝に、病人に、痩せこけた思想に、哲学的な死にさえ、いっときの活力を与えずにはおかない。
 しかし、彼は退屈だった。何か面白いニュースはないもんかと新聞記事の端から端まで目を通す。老齢だが目も耳も達者である。悪いのは口だけ、とは本人の日頃の言い種。
「おはよう、シゲちゃん。ツルエさんも毎朝精が出るねえ」
 古くからの友人が犬の散歩に通りかかって声をかけた。シゲジロウは新聞から顔も上げずに「お
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