俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
大袈裟に首を横に振った。
「安全のためだべ。人が密集している所では思い切ったこともできんから」
「じゃが、人が密集している所で実際に事故が起こったら、その訓練は役に立たないんじゃないかい?」
「そんなこと知らんわい」
ダイスケは話を打ち切って口を濯ぎはじめた。
シゲジロウは朝刊を持ったまま外に出て、酒の自動販売機のすぐ横にあるベンチに座った。よく晴れ渡った青空から初春の柔らかな光が降りそそいでいる。雪解けの水が太陽の上昇とともに動きはじめ、あらゆる傾斜を流れ下って、排水溝へ、川へ、海へと消えていく。そして一方で絶え間なく蒸発する雪の下から大地がその素顔を露にしつつあった。
長
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