俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
かし、そうした思いに至るとき、彼は何故かいつも溜息をついた。昨日も一昨日も溜息をついた。今朝も、たった今、その口から溜息が洩れた。
「ふう。やれやれ・・・」
シゲジロウは気を取り直すように顔を上げ、暗い帳場から屋外に視線を移した。
店の前では「美人ではないが気立ての良かった」老妻のツルエが、残雪をスコップで排水溝に捨てている。その姿をぼんやり眺めながら、「平々凡々な人生だったな」と呟いてみた。
「えっ、何か言ったかえ?」
ツルエが店の内へ顔を向けた。
「おう、毎日かったるいなあと言ったんじゃ」
すると奥の洗面所にいた息子のダイスケが歯ブラシをくわえたまま顔を出した。
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