『Alice』/川村 透
 
くした上半身だけの石膏の像だった。
月明りの街角、ネオンはモノクロにぼやけ、ストリートの喧噪から外れた物陰の
後ろ暗い路地で、ほの白く硬い僕が呼吸する。
あたりには偏在する女の黒い気配だけが、会った
のは初めて、
と女は薄く笑う、
生臭い夜の天使がその背負った翼の腋の下を
すえた匂いでぷんぷんさせながら、僕という像の堕ちた路地に足を踏み入れ
つぶらな瞳を近付けてくる、みたいな微笑みなんだろうか?
石膏になった僕には、ぼんやりとしか、もう見えない。
黒いビニルのちゃらちゃらした小銭入れ、
じみたレザーの仮面にすっぽりぴっちりと首から上を納めた女の、
デオドラントな裸身が、手袋
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