『Alice』/川村 透
 
夜の街を見た
のは初めて、
なの、
と女は動く蛇の冷たさ苦さゆるゆると身をくねらせて刺青の街が、僕を誘うんだ。
僕は女の背中の地図を街をなでさする、目を射るように輝く成層圏から俯瞰した地上
のつぶつぶの銀色オフィスビル、灰色の橋、モルタル臭い駅、つるりとした瓦の家々
緑を断ち切る煙と河、光の道路、碧の木々とミルクと石膏の山肌、藍染めの海、湖、
凍鶴と白浜の砂漠じくじくと膨らんだそのぶつぶつの毛穴、おしろい、の粉までも。
細くて白くて狭くてイトオシクテという記号にツキウゴカサレ
手。
腰から脇へと滑り込む肋骨の円弧に沿ってひきつれた傷跡めいた鉄道の軌条
その先に膨らむ薄い胸の頂
[次のページ]
戻る   Point(6)