海岸地方の物語/「ま」の字
淋しい海岸には古びた洋館が建っていて
僕たちはそこでひと夏を過ごした
きみは髪の長い とてもきれいな女の子だったね
/だけど思い出せるのは 逆光に浮かぶはかなげなシルエットと
今ではもう時代遅れの 白いフリル/
長い休みだった
僕らはまいにち浜辺に
ベーコンとチーズとトマトのサンドイッチ
手製ジャムたっぷりのパンケーキ
お約束気分で作ったゆで卵なんかを隙間なく詰めたバスケットをもって行き
海のうえの白い雲を眺めながら食事をした
Radioからは上機嫌な音がキラキラと転げ出し
いつもいつも
素敵に気持ちのよい午後だった
時がすぎ
騒ぎのあとの海辺に日暮れが近づく
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)