海岸地方の物語/「ま」の字
 
づくと
ふいとみんな黙り込んでしまい
にわかに立ち上がってだれかれなく肩寄せあい 洋館への道をいそいだ
不定形に揺れながら 僕ら
影ばかり夕暮れ空の下
かすかにあまく
風は
むらさきに透きとおったきみのシルエットを舌の上に透すようにかおり
誰も見なかった
思い出しても記憶もなく

 ・・・・・・・・・・・・・・・

「そらクレソン 林檎にセージとレタスにマンゴー、
 イカにイセエビ、牡蠣ひと抱え!」
市場に繰り出しおおはしゃぎ
それでいったい誰が料理するんだァ、と誰かがうっかり口を滑らし
またもややかましい議論が小一時間
つまりは、どうやって浜辺で過ごそうかとい
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