おやすみなさいするのです/百(ももと読みます)
 
う合図で、ゆびをぱちんっとした瞬間に世界ごと霧のくずとなっても、ぼくはくずのままでわらいながら消えちゃって。霧のなかで迷子になって。



 最後の最後で、愛しているよって、言葉の意味も知らないままのまるはだかの言葉が意味の全てを無とする瞬間に宿るものが思いつかないから、命だって、祈りだって、言葉だって、必死で主張したいだけなのかと。



 診察室で、なにもいうことを思いつかないのは、はじめてだ。いうことないけれども、お話しすることで人形みたいに無情でね、人形となれないニクであり、無面目めいたもののあわれの片鱗も、ぼくには、まるで備わっていないことを知っている。



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